演目「経政」のワキは、腰桶(葛桶)に坐して謡うので、ひざ痛の心配は無用だ。

5年前に同じ役をこなしているので何とかなるだろうと、役を引き受けた。

ところが、暗記力の衰えという厳しい現実に向き合う破目になってしまった。

いつまでたっても同じ間違いを何度も繰り替え返す始末。

思い出せないのは出だしの言葉に多い。

そこで接続詞の暗記を試みたら、よどみなく謡や詞章が出るようになった。

40日ほどは寝ても覚めてもの稽古だった。当日、台風余波の雨予報もはずれ、見所はほぼ満席。

仲間から「いや立派だったよ」と褒められ、「発声だけは、でしょう」と。